#1 戸建てリフォーム計画の考え方
築50年以上の木造2階戸建てのリフォーム現場が新しく始まりました。耐震改修・断熱改修を含め、内装をすべて一新するフルリフォームになります。よい機会なので、現場の進捗に合わせて、少しづつリフォーム現場の様子と戸建てリフォーム改修の考え方を過去の施工事例を交えながら、お伝えしていきたいと思っています。これから、戸建てのリフォームをお考えの方々に少しでも参考になれば幸いです。記事の第一弾は、『戸建てリフォーム計画の考え方』についてです。戸建てリフォームの計画を立てる際に考えていくことをご紹介していきます。
▼過去の施工事例
リフォームの2つのパターン
リフォームをしたい、と思ったら、とにもかくにも、まずはリフォーム計画を練っていきます。リフォームの場合、①今まさに住んでいる建物をリフォームする場合と②中古物件を新たに取得し、リフォームする場合の2つのパターンに分けられます。前者の場合は、日々の生活の不満点を解決するためにリフォームするため、どこをどう直したいか明確な場合が多く、より具体的な話から始まるため今抱えている問題点についての解決策を提示させていただきながら計画を立てていきます。一方で、後者の場合、住む前にきれいにしたいという漠然としたご要望からスタートすることが多く、内装だけで済むのか、外装まで行うべきなのか、性能面での改修は必要なのか、一つ一つ確認していくことから始まっていきます。今回の現場では、中古物件を新たに取得した方からだったため、後者のパターンでした。そのため、まずはお施主様とのお打ち合わせを何度か重ねて、計画を具体的にしていきます。
戸建てリフォームの場合、手を付けるところが多くなればなるほど予算が膨らんでいき、場合によっては建て替えとかわらないぐらいの費用がかかってしまうこともあります。解体範囲が増えると必然、工事規模が大きくなり、費用も増加するため、予算を考慮の上、優先順位を決めて、取捨選択していくことが必要になっていきます。予算を抑える工夫としては解体する範囲を狭くすることが一番効果的です。
工事規模を決める3つのチェックポイント
リフォーム工事の場合、予算を大きく左右するのが工事規模となります。新築で戸建て住宅を建てる際の順序をどこまでさかのぼる必要があるかで工事規模が決まっていきます。例えば、耐震補強のために構造材を見える状態にする必要があれば、仕上げ材、下地材すべて撤去する必要があります。リフォームの場合、新築と異なり最初に解体の一工程が入る分、手間がかかるため家一軒分すべて手を付けると建て替え並みの費用に近づいていきます。目安として特に、工事規模に直結しやすいポイントが、①耐震改修の有無、②断熱改修の有無、③雨漏れの有無の3つです。
耐震性の問題
古い建物の場合、何より問題になるのが耐震性です。耐震改修の場合、耐力壁の増設、建物の軽量化、接合部の補強、基礎の補強など建物の状況によって必要な工事項目が異なりますが、基本的には建物の構造体(軸組)や基礎に対する工事となるため、工事する箇所については下地を含めてすべて壊す必要が出てきます。耐震性が問題になるのかどうか、第一の判断基準は建物の築年数になります。
1981年(昭和56年)に建築基準法が改正され、新耐震基準と呼ばれる地震に対する基準が法律の中で明文化されました。現行の基準ほどではないですが、この年以降の建物であれば一定の耐震性を持っていることとなります。つまり、この年よりも前に建てられた家はほとんど耐震性が不十分なことが多いです。自分でもできる簡易的な耐震診断としては、「一般財団法人 日本建築防災協会」が公表している『誰でもできるわが家の耐震診断』が参考となります。また、行政で耐震診断および耐震改修に対して助成する制度を設けているところもあるため、一度お住まいの地域で調べてみるといいかもしれません。耐震改修が必要となるかは、判断がなかなか難しいので、不安に思ったら行政の支援などをうまく活用し専門家に意見を伺うことをお勧めします。もちろん、弊社にご相談いただいても構いません。
参考になる外部サイト
今回の現場は、残念ながら1981年よりも前の建物のため、地震に抵抗するための基準を満たした壁(耐力壁)がほとんどなく、耐震診断の結果の評点がほとんど0に近い数値でした(0.7未満で「倒壊する可能性が高い」、1以上で「一応倒壊しない」)。そこで、今回は耐震改修を軸にリフォームの計画を練っていきました。今回は評点がほぼ0だったことから新築並みに耐力壁を入れる必要がありました。地震の力は、1階が2階の分の重さを支えている分、2階に比べ、必要な耐力壁の数が多くなります。したがって、1階部分の補強ヶ所は数が多くなり、それに伴って解体範囲も大きくなります。そこで、1階は補強ヶ所以外の床壁天井もすべて解体し、下地からすべてやり直すこととし、補強ヶ所が比較的少なくて済む2階については予算を抑えるため壁と床の解体範囲を一部としました。一方で、基礎については図面資料より無筋コンクリートであることが分かったのですが、目視点検の結果から目立ったひび割れ(クラック)もなく、健全であることが耐震診断より確認されていたため、見送りました。
断熱改修
次いで、断熱改修についてです。断熱改修では、断熱材の充填とサッシの交換が主な工事項目なります。断熱材の施工には一度仕上げ材と下地材の一部を解体する必要があり、サッシの交換では雨仕舞の問題も合わせて考えなくてはならないため比較的手間のかかる工事となります。一方で、下地まで解体する必要のある耐震改修とは相性の良い工事のため併せて行うことで、経済的に行うことができます。どうせ、耐震改修のために解体するならついでに断熱材の充填も行ってしまったほうが、より家の性能を向上することができます。
ひと昔前の木造住宅では、ほとんどの場合断熱材が入っていないため、良く言えば通気性のよい、悪く言えば夏は暑く、冬は寒い家となっています。最近の異常とも言える気象状況を考えると断熱材および高機能なサッシの施工は標準装備だと考えています。リフォーム現場の場合、断熱材の施工には一度仕上げ材と下地材の一部を解体する必要があります。通常、断熱材は壁なら柱・間柱の間、床なら床の下地材(根太)の間、天井なら天井下地(野縁)の間に隙間なく充填していきます。ちょうど、断熱材で家全体を包み込むように施工します。充填する断熱材は、熱を通しにくい素材を用いるのですが、弊社の場合、羊毛断熱材(ウールブレス)を標準仕様としています。羊の毛を用いた断熱材のため、調湿性能があり、壁内の結露を防止するため、日本の多湿な夏にはもってこいな断熱材です。
断熱材の施工のほかに、断熱効果の高い改修としては、サッシ(窓・掃出し窓)や玄関ドアの交換が効果的です。昔のサッシは、アルミ製の窓枠に、単板ガラスが主流で、金属の枠や薄いガラスから夏場は多くの熱が建物内に入り込み、冬は熱が逃げていきます。最近のサッシは、樹脂を複合したアルミ樹脂複合サッシ、2枚以上のガラスを組み合わせた複層ガラスなど断熱性能が向上したものが主流となっています。建物内外の熱のやり取りの多くは、開口部で行われるため、サッシを断熱性能の高いものに交換することで断熱性能を大幅に高めることができます。リフォーム用の窓として、既存サッシを利用して取り付ける製品もあるので、うまく活用すれば容易に窓の交換が可能な場合もあります。
今回の場合、耐震改修のために下地材を撤去するため、同時に断熱材の充填が行えるため、解体する部分は断熱材を施工することとし、少しでも断熱性能を上げる工夫をしました。また、1階部分を全面改修するため、併せてサッシの交換も行う計画としました。窓の取りやめやサイズの変更が必要な計画だったため、外壁の補修がどちらにせよ必要であったため、リフォーム用の窓ではなく、通常のサッシでの交換を行う計画としました。
雨漏れの問題
工務店として、リフォームのご依頼で雨漏れをしていると聞くと少し身構えます。自分たちで施工していない物件の場合、雨仕舞と呼ばれる防水処理をどのように行ったかが不明確のため、問題点をあぶりだすのが難しいからです。そのため、雨仕舞を担保するためにも、雨漏れをしている物件では外壁や屋根を含めた外装の全面的な修繕も視野に入ってくるため工事規模が大きくなることが多いです。雨風しのげることは、家の最も基本的な性能なためとても慎重になります。部分的な補修で済ませ、実は雨漏れヶ所が完全に修繕できておらず、せっかくきれいにした内装がダメになってしまったら元も子もないため、安請け合いができない要素となります。
また、直接水が入ってきてしまうという点のほかに、木部の腐食が起きている可能性もあります。特に中古物件を購入して、リフォームする場合、雨漏れの被害がどの程度で、どこまで修繕されているのかはっきりしない場合があり、長期間にわたって雨漏れを放置している場合は、腐食の範囲も大きくなっているため、下地やひどい場合には構造材の交換・補強も考えなければいけなくなってきます。その点でも雨漏れをしているのかどうかは工事規模を決める大きな要素となります。
今回の現場では、外壁のクラックが確認され、外壁からの雨漏れが疑われるヶ所もあったため、外装塗装のやり直しが必須であると判断しました。一方、屋根は最近葺き替えたようで、屋根裏にも水漏れを起こした様子がなかったので、屋根は手を付けない計画となりました。
まとめ
今回は、戸建てリフォームの2パターンと工事規模を決める3つのポイントをご紹介しました。耐震改修、断熱改修、雨漏れ対策などの性能面の改修が必要となると建物の全体的な改修が必要となり、次第と工事規模が大きくなってしまうため、計画の際にはまずこれらを行う必要があるのか検討を行っておくとよいでしょう。建物全体に係る項目がご紹介できたので、次回の記事では、内装や設備面でのリフォーム計画をご紹介したいと思います。