#3 ヒノキのはなし
木のはなし、第3弾はスギと並んで針葉樹の代表格『ヒノキ』のはなしです。
基本的なこと
漢字名 | 桧、檜 |
英名 | Japanese cypress, hinoki |
学名 | Chamaecyparis obtusa |
分類 | Cupressaceae - Chamaecyparis ヒノキ科-ヒノキ属 |
ヒノキの特徴は?
ヒノキは、スギと同じ日本原産の代表的な針葉樹のひとつです。天然林では、長野県木曽町の木曾ひのきが有名ですが、生息地としては福島以南の本州、四国、九州(屋久島まで)となっています。天然林の方が、木目が細かく緻密になるといわれており高級材として重宝されています。
ヒノキの名の由来も諸説あるようですが、スギのはなしにもでてきた江戸時代に書かれた大和本草(2)には、
是ヲ錐ニテモメハ火ヲ生スル故火ノ木ト云
大和本草 巻之十一
とあり、『錐を使って揉めば火を起こすことができる』ことから『火の木』と呼ばれるようになったそうです。ほかにも、日本書紀(3)のスサノオノミコトについて、記述されている内容から、
又拔散胸毛、是成檜。(中略) 檜可以爲瑞宮之材。
日本書紀神代上 第八段一書(五)
『日本神話・神社まとめ』, https://nihonsinwa.com/page/733.html, 2022/11/02閲覧
と書かれており、『スサノオノミコトの胸毛が桧となり、宮の材料に使うように』と書かれています。これらのことから、『霊(ひ)の木』や古来では太陽すなわち尊いものを表す『日の木』を語源とする説もあるようです。
ヒノキは、多くの伝統的な木造建築物や仏像の材料に使われています。例えば、世界一古い木造建築物として有名な法隆寺や20年に1度社殿を造り替える式年遷宮を行う伊勢神宮などがあげられます。仏像の材料としても使われており、国宝に指定されている『木造地蔵菩薩立像』や『木造吉祥天立像』、『木造毘沙門天立像』もヒノキから彫られています(4)。細かい彫刻にも耐えうる、ヒノキの加工のしやすさがよくわかります。
法隆寺創建当時のヒノキの古材を薄く挽いたものに書かれている。
ヒノキは、油分が多く特徴的な香りがします。ヒノキの香りは、テルペン類と呼ばれるグループの物質が主成分です。ヒノキの名がついたヒノキチオールという物質がありますが、もともとはタイワンヒノキから発見された物質のため、実は日本のヒノキにはほとんど含まれておりません。むしろ、ヒバに多く含まれていることがわかっています。
建材として
ヒノキの特徴は、スギに比べ硬く、比較的水に強い点があげられます。ねじれが少なく、加工性もよいので幅広い用途で使用されます。エコロジーライフ花+直井建築工房の家づくりでは、柱や土台、根太、フローリング、家具、外回りの造作材(濡れ縁)などで使用しています。生息地からもわかるように、北日本では生息地が限定されるため、東京から西から手に入れることが多い樹種です。
フローリングでの位置づけは、スギより高価で、クリより安価です。スギは柔らかくイスを使うような場所には不向きなため、代替案として硬いヒノキを使用することがあります。材によっては、少しピンク色となりますが、経年変化で気にならなくなります。材として、木裏は裂けやすい特徴を持っているのでテープなどを一気にはがすとめくれてきます。
ヒノキは、伝統的な木造建築物において樹皮が屋根材として利用されています。これを、ヒノキの皮で屋根を葺(ふ)くことから檜皮葺(ひわだぶき)と呼ばれます。ヒノキの樹皮は、原皮師(もとかわし)と呼ばれる専門技術を持った職人によって採取されます。木の皮を剥ぐと樹木の生長への影響が気になるところですが、冬季に熟練の原皮師が採取した場合には、樹木の生長に影響を及ばさないと考えられています(5)。
(5)について詳しく
樹木は一般的に樹皮と木部の間にある形成層と呼ばれる部分で細胞分裂が活発に行われ、樹木が成長していきます。冬季においては、季節的に形成層の活動が休止期に入るため細胞分裂が少なくなり、冬季に檜皮を採ることでは新しい細胞への影響を小さくすることができます。また、併せて熟練した原皮師は木部を傷つけず樹皮だけを採取するため、形成層への機械的な損傷がほとんどなく、樹木の生長を妨げないと考えられています。
ヒノキの使用例
参考文献・サイト
(1) 林野庁 森林資源の現況(平成29年3月31日現在)より計算した
(2) 大和本草 巻之十一
(3) 日本書紀神代上 第八段一書(五)『日本神話・神社まとめ』, https://nihonsinwa.com/page/733.html, 2022/11/02閲覧
(4) 法隆寺 金堂壁画再現記念, 朝日新聞社
(5) Utusmi, Yasuhiro, et al. The effect of bark decortication for hiwada production on xylem and phloem formation in Chamaecyparis obtusa. Journal of wood science, 2006, 52.6: 477-482.